ヴェリタス講師による書評

ヴェリタス講師による書評2025-10-04T03:58:24+09:00

『奥山准教授のトマト大学太平記』(奥本大三郎著、幻戯書房、2011年)

評者:石井 恭平(ヴェリタス英語科講師) 第一節:とある大学教授の日常を題材にした小説 これまで私が書いてきた書評を読んだことがある方には、もはや隠しきれなくなっているかもしれない。私は天邪鬼である。これまでの人生でも、これからの人生でも、有名本の書評を書くことはできるだけよそう、と固く決意している。今回私が選んだ本も、おそらくは、あまり世間では知られていないだろう。「とある大学教授の日常を題材にした小説」というジャンルであれば、筒井康隆氏がものした『文学部唯野教授』(岩波文庫、1990年)などが有名であり、この本を挙げる人はあまりいなそうである。私は、あまり知られていない本や、読むべきでないとされている本のなかで、とても面白かったものを「ゲキシブ本」と呼称しており、こうした「ゲキシブ本」の中で、よく読むと興味深いことが書いてある部分を引用して褒めちぎるということをしばしばやってきた。私がこの本、『奥山准教授のトマト大学太平記』と最初に出会ったのは相変わらず東京都北区の区民図書館であるが、タイトルの意味不明さに惹かれて最初の章を少し読んでみたらあまりにも面白く、ネット上で191円で売...

2025年9月10日|

『英会話不要論』(行方昭夫、文春新書、2014年)

評者:石井 恭平(ヴェリタス英語科講師) 第一節:読み書き偏重、上等論 私は文京区本郷にあるヴェリタスという塾で英語を教える仕事をしている。授業スタイルそれ自体は、さして変わったところもない。誰にでもすぐに分かる明快な構造の授業設計ばかりをしている。まずは英文で書かれた難しい文章を用意し、毎週担当範囲を決めて参加者に、①訳出してもらい、②文法解説と、③内容解説までしてもらっている。①訳出→②文法検討→③内容検討というループを教室内に発生させ、全員で発表者に質問をしながら回しているのである。そして①→②→③のループを何度も何度も繰り返す。たまに脱線で与太話が生じたり、適宜、英語文法復習タイムを設けたりもしているが、基軸となるのはこのループだけである。そして、④英作文の課題を毎週、お題を決めて提出してもらっており、私がコメントを書き込んで返却していく時間もとっている。いま①②③④と書いてみて驚いたのだが、文字にすれば数行で済む、こういう授業である。これをいま、私たちは毎週やっている。余計な意匠を排したこういう授業は、やっていて気づいたのだが、意外に奥が深いらしい。というのも、私の授業には...

2025年6月24日|

『人生に期待するな』(北野武著、扶桑社、2024年)

評者:石井 恭平(ヴェリタス英語科講師) 第一節:この本と私との出会いについて あれは9月のことであった。高校時代から、私がその縦横無尽の活躍に圧倒されるしかなかった、さる高名な人物が、ネット上の誹謗中傷や有力者たちの政治的思惑にひどく翻弄され、自殺した。生前、かの女は時めいていたのである。この社会の周縁に常に身を置いてきたし、しかも全然そこから出る気がない私のような人間から見たら、このかたは、高校の同期の中で1番、輝いてみえていた。私はかの女の死のことを聞き、高校時代、物理学の実験でこのかたとペアになると、このひとにほとんどの作業を代行してもらっていたことを即座に想いだした。私が当時、物理学の授業を聞いていな過ぎて、実験で使いものにならなかったからである。そしてあのときの感謝の念と、反省の念が込み上げた。おそらくかの女は、私のことなど覚えているはずもなかったが、私は覚えていた。 そして、いつも以上にふさぎこみ、その後しばらく放心していた私だったが、ふと、自分があるドラマを、すがるように、見ていることに気がついた。『ツイン・ピークス』というドラマである。高校で一番の美少女であるローラ...

2024年11月9日|
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