『英会話不要論』(行方昭夫、文春新書、2014年)
私は文京区本郷にあるヴェリタスという塾で英語を教える仕事をしている。授業スタイルそれ自体は、さして変わったところもない。誰にでもすぐに分かる明快な構造の授業設計ばかりをしている。まずは英文で書かれた難しい文章を用意し、毎週担当範囲を決めて参加者に、①訳出してもらい、②文法解説と、③内容解説までしてもらっている。①訳出→②文法検討→③内容検討というループを教室内に発生させ、全員で発表者に質問をしながら回しているのである。そして①→②→③のループを何度も何度も繰り返す。たまに脱線で与太話が生じたり、適宜、英語文法復習タイムを設けたりもしているが、基軸となるのはこのループだけである。そして、④英作文の課題を毎週、お題を決めて提出してもらっており、私がコメントを書き込んで返却していく時間もとっている。…
『人生に期待するな』(北野武著、扶桑社、2024年)
あれは9月のことであった。高校時代から、私がその縦横無尽の活躍に圧倒されるしかなかった、さる高名な人物が、ネット上の誹謗中傷や有力者たちの政治的思惑にひどく翻弄され、自殺した。生前、かの女は時めいていたのである。この社会の周縁に常に身を置いてきたし、しかも全然そこから出る気がない私のような人間から見たら、このかたは、高校の同期の中で1番、輝いてみえていた。私はかの女の死のことを聞き、高校時代、物理学の実験でこのかたとペアになると、このひとにほとんどの作業を代行してもらっていたことを即座に想いだした。私が当時、物理学の授業を聞いていな過ぎて、実験で使いものにならなかったからである。そしてあのときの感謝の念と、反省の念が込み上げた。おそらくかの女は、私のことなど覚えているはずもなかったが、私は覚えていた。…